感動をつくる人の原点|Season2 第14話 受け継がれていく教え

基本的に、私の振付の現場では、フォーメーションをつける前に、全員で踊る部分の振付をします。
それが終わると、いよいよフォーメーションをつける作業に入るのですが、ここで、ある演出家から言われたことがあります。
「振付師は、センターから動くな。」
最初に聞いた時は、その意味がよく分かりませんでした。
当時の私は、フォーメーションをつける時、出演者のところまで行って、
「もう少し右。」
「あなたは、あと半歩前。」
そんなふうに、一人ひとりを自分で動かしていました。
すると、その演出家から、
「そこへ行って動かすのではなく、センターから指示を出しなさい。」
と教えられたのです。
ステージには、「場ミリ」という目印を付けます。
出演者が自分の立ち位置を覚えられるように、ステージ前に等間隔の番号を付けたり、横のラインが分かるように目印を付けたりします。
リハーサルの時は、スタジオの床にその場ミリを貼って、
「Aラインの3番。」
「Bラインの2番。」
と伝えることで、出演者は自分でその場所へ移動することができます。
もしかすると、出演者のそばまで行って位置を直してあげた方が、早いように思えるかもしれません。
でも、大勢の出演者がいる時は違います。
一人を動かすために振付師が右往左往していると、時間がいくらあっても足りません。
そして、もっと大切なことがあります。
振付師がセンターに立ったまま指示を出せば、
出演者だけではなく、舞台監督や周りのスタッフも、
「今、どの位置を直しているのか。」
を同時に理解することができます。
そして、もう一つ。
出演者は、自分の立ち位置を覚えると同時に、
フォーメーション全体の中で、自分がどこにいるのかを把握できるようになります。
このとき教わったのは、舞台上の位置のことだけではなかったのだと、今は思います。
同じ基準を持ち、同じ景色を共有すること。
それができれば、一人ひとりのところまで行って、すべてを自分で動かす必要はありません。
出演者自身が、自分のいる場所を理解し、自分で動けるようになる。
そして、それは出演者だけではありません。
演出家も、振付師も、舞台監督も、スタッフも。
そこにいる全員が同じ基準を共有していれば、それぞれが自分の仕事をすることができます。
「振付師は、センターから動くな。」
あの頃、教わった短いひと言。
それは、フォーメーションをつけるための技術だけではなく、
みんなが自分で動けるために、まず同じ基準を共有する。
そんな、ものづくりの基本を教えてくれた言葉だったのだと、今は思います。
そして私は今も、振付師と一緒に仕事をするとき、この考え方を大切にしています。
フォーメーションをつけるとき、振付師が出演者のところまで行って、一人ひとりを動かしていると、
「センターから動かない。」
そう伝えます。
かつて私が教えてもらったように。
現場で教わったことは、自分だけのものではありません。
教わったことを、次の人へ伝えていく。
そうやって受け継がれていくことも、ものづくりの大切な一部なのだと思います。
読んでいただき ありがとうございました。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




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