感動をつくる人の原点|Season2 第20話 感動は、積み重ねの先に

前回に続いて、『ワン・マンズ・ドリーム』のお話です。
今回は、あらためて音楽に耳を傾けながら作品を見返してみました。
すると、音楽だけではなく、振付、芝居、衣装、舞台装置、照明、そして「間」。
その一つひとつが、観客の気持ちを次の場面へと導くために、実に細かく計算されていたことに気づきます。
音楽とともに、色が生まれる
ショーは、『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソングから始まります。
お城が描かれた幕が開くと、そこに現れるのは、白黒の絵本のような世界。
ミッキーとミニーも、まだ白黒です。
ミッキーがミニーに、小さな色とりどりの花束を渡します。
ミニーがミッキーにキスをする。
すると、音楽が動き始めます。
その音楽に合わせるようにダンサーたちが次々と登場し、白黒だったミッキーとミニーが、一瞬で鮮やかなカラーの姿へと変わります。
周囲のダンサーたちの衣装も、ミッキーとミニーをイメージしたデザイン。
男性は赤いパンツに、黄色い蝶ネクタイとサスペンダー。
女性は赤と白の水玉模様のミニドレスに、黄色い靴。
衣装までが、ミッキーとミニーの世界の一部になっています。
そして、七色の虹が現れ、白黒だった舞台に色が広がっていきます。
ただカラフルにするのではなく、
何を見せたいのか。
色の変化もまた、観客の目を導き、
世界が変わったことを感じさせる演出の一つなのだと思います。
舞台全体が華やかなカラーの世界へ変わると、テーマソングも一気に大きく広がっていきます。
第17話では、この白黒からカラーへと変わる演出について書きました。
でも、あらためて音楽に耳を傾けてみると、
まるで音楽が、その色の変化を導いているようにも感じます。
音楽も、場面を転換させる
オープニングが終わると、大きな拍手。
そのあと、テーマソングのメロディーを使った短いチェイサーが流れます。
出演者たちが舞台を去り、入れ替わるようにアリスが登場する。
音楽が途切れることなく、次の物語への橋渡しをしています。
舞台装置だけではありません。
音楽もまた、場面を転換させているのです。
次の世界の音楽で、次の世界へ
あらためて音楽の流れを追ってみると、ひとつ面白いことに気づきました。
オープニングのチェイサーを除くと、ピーターパンとウェンディが星空へ舞い上がる寸前まで、『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソングは一度も戻ってきません。
では、まったく違う世界を、何がつないでいたのでしょう。
それは、次のシーンの音楽でした。
アリスの『私だけの世界(In A World Of My Own)』は、後半になると、おしゃれなジャズアレンジへと変わっていきます。
そこから、『おしゃれキャット』の『みんなネコになりたいのさ(Ev'rybody Wants to Be a Cat)』へ。
続いて、『わんわん物語』の『彼がトランプさ(He's a Tramp)』。
どちらも、もともとジャズの魅力にあふれた曲です。
アリスの世界から、ディズニー映画を代表するジャジーな音楽へと自然につながっていきます。
そして、その先に待っているのが『ジャングル・ブック』。
ここもまた、ジャズの世界です。
まるで三つのジャズナンバーが連なっていくように、音楽の空気を受け継ぎながら、物語だけが次々と変わっていきます。
『ジャングル・ブック』のエンディングでは、ジャズではおなじみのダブルテンポへ。
キング・ルイとモンキーたちが、ステップ&キックを踊ります。
その姿がなんとも可愛らしく、思わず笑ってしまいます。
そして、物語は『ピーター・パン』へ。
舞台が次の世界へと変わっていくのと同時に、
音楽が、観客を次の世界へ連れていく。
だから、場面と場面の境目を強く意識することなく、
気がつけば、もう次の物語の中にいる。
You Can Fly
『ピーター・パン』の場面は、まず海賊たちのダンスナンバーから始まります。
途中から、フック船長と手下のスミーが登場。
音楽には細かなアクセントや遊びが随所に散りばめられ、怖いはずの海賊たちのお茶目な一面が見えてきます。
迫力のあるテクニカルなダンスと、どこか滑稽で愛嬌のある海賊たち。
その両方が、音楽と振付によって巧みに組み合わされています。
シーンの構成、音楽、振付が一体となって、ひとつの物語をつくっている。
そんな綿密な計算が感じられます。
やがて、
チクタク、チクタク――。
時計の音が聞こえてきます。
時計をくわえたチクタクワニ。
そして、ピーターパンが船の裏から姿を現します。
ピーターパンとフック船長とのやり取りも、音楽と動きがぴったりと重なっています。
そして、いよいよ物語はウェンディとの場面へ。
『You Can Fly』の音楽とともに、何かが起こりそうな空気がつくられていきます。
初めてこのショーを観た観客は、このあと二人が本当に空を飛ぶことを知りません。
だから――
まさか……。
飛んだ。
ピーターパンとウェンディが星空へ舞い上がった、その瞬間。
音楽は、『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソングへと変わります。
オープニング以来、テーマソングが、ここで戻ってくる。
音楽も、振付も、芝居も、タイミングも。
すべてが少しずつ積み重ねられ、その先に大きな見せ場が待っている。
最後に見せたい頂点へ向かって、観客の気持ちを少しずつ連れていく。
今あらためて観ても、本当に見事な演出だと思います。
音楽とともに、世界が広がっていく
ピーターパンとウェンディが星空を舞う中、幕が閉じます。
ここで観客には、拍手とともに「すごい!」という感動を味わう、ほんの少しの余韻の時間が生まれます。
そして、その次に現れるのは、プリンセスとプリンスのロマンティックな世界。
最初は、幕前に3組のカップルだけ。
音楽は、まるでオルゴールのような音色。
振付も、プリンセスたちの表情も、オルゴールの人形を思わせるような動きです。
小さなオルゴールの中にいるような、静かでロマンティックな世界。
やがて、音楽が大きく広がっていきます。
それとともに幕が開くと、目の前には華やかなボールルームが現れます。
音楽も、オルゴールのような繊細な響きから、フルオーケストラによる華やかな演奏へ。
幕前の小さな世界が、音楽とともに、一気に壮麗なボールルームへと広がっていくのです。
プリンセスたちの表情も、生き生きと変わっていきます。
大きな感動のあとに、さらに大きなものを重ねるのではなく、一度、観客の気持ちを静かな世界へ。
そこから、また大きく広げていく。
音楽が変わる。
振付が変わる。
幕が開き、舞台の景色が変わる。
さらに、ボールルームダンサーたちの衣装は、ワインカラーで統一されています。
華やかな場面でありながら、周囲を必要以上にカラフルにしないことで、主役である3組のプリンセスとプリンスが美しく浮かび上がる。
華やかにすればいいのではなく、どこを見せたいのか。
そのための色まで計算されている。
この計算も、本当に憎いところです。
30分のショーなのに、慌ただしくない
さらにショーは、4羽のペンギンから始まるオムニバスへ。
ドナルドの『白鳥の湖』。
グーフィーの『カルメン』。
そして、ミッキーの『ハムレット』。
そこには、ベートーヴェンの『運命』が使われています。
クラシックの名曲まで、キャラクターたちによってコミカルなショーナンバーへと変わっていきます。
そして舞台は、『Hooray for Hollywood』とともに華やかなハリウッドの世界へ。
映画スターたちがレッドカーペットを歩いて登場します。
音楽も、舞台の情景も、まさにハリウッド。
ところが、その世界は一瞬で変わります。
ゴールドのスパゲティーカーテンが振り落とされる。
それと同時に、音楽は『Mickey Mouse Our Shining Star』へ。
音楽も、舞台も、一瞬で新しい世界へと切り替わります。
考えてみれば、このショーには、これだけたくさんの物語や音楽、仕掛けが、わずか30分ほどの中に詰め込まれています。
それなのに、不思議と慌ただしさを感じません。
流れるように進むところ。
しっかりと間を取るところ。
静かに見せるところ。
観客が拍手を送り、その感動を味わうところ。
一瞬で世界を変えるところ。 その緩急があるからこそ、観客は一つひとつの感動を受け取りながら、置いていかれることなく、次の世界へ、また次の世界へと自然に連れていかれる。
大切なのは、どれだけたくさん見せるかではなく、観客の気持ちを、どんな速度で動かしていくか。
そんなことも、あらためて感じました。
最後に、すべての夢がひとつになる
『Mickey Mouse Our Shining Star』の華やかなナンバー。
その終盤、よく耳を澄ませてみると、『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソングが重なってきます。
二つのメロディーが重なりながら、華やかなシーンは大きなフィナーレへ。
そして再び、『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソング。
そこから『星に願いを』へ。
最後は、もう一度『ワン・マンズ・ドリーム』のテーマソングへと戻っていきます。
アリス。
アニマルたち。
ジャングル・ブック。
ピーター・パン。
プリンセスたち。
そして、ハリウッド。
それぞれ、物語も違えば、音楽もまったく違います。
けれど最後には、再び『ワン・マンズ・ドリーム』へと戻ってくる。
いくつもの違う物語が、最後には『ワン・マンズ・ドリーム』という一つの夢へとつながっていく。
あらためて作品を見返してみて、思うことがあります。
音楽は、観る人の心に景色を描き、感情を動かす。
そこに振付が重なり、芝居が重なり、衣装や舞台装置、照明が重なっていく。
そして、それらが一つの方向へ向かったとき、
観客の心に、大きな感動が生まれる。
最後に見せたい頂点がある。
そこへ向かって、音楽も、振付も、芝居も、衣装も、舞台装置も、照明も、そして「間」さえも、一つひとつ積み重ねていく。
観客の心理を、どう導くか。
振り返ってみれば、私はバーネットさんの演出から、そんなことを学んできたのだと思います。
38年が過ぎた今、あらためて当時の『ワン・マンズ・ドリーム』を見返してみると、
私が演出家として大切にしてきたことの原点の一つは、ここにあったのかもしれません。
そして今も、
「こんなところにも、こんな工夫があったんだ。」
と、新しい発見があります。
『ワン・マンズ・ドリーム』には、まだまだ宝物が埋まっているようです。
またいつの日か、この宝箱を開けることがあるかもしれません。
さて、次はニューヨークへ。 ブロードウェイで出会った、もう一つの忘れられない舞台のお話です。
読んでいただき ありがとうございました。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




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