感動をつくる人の原点|Season2 第23話 非日常への入口

昔、あるプロデューサーから、こんなことを言われたことがあります。
「素晴らしい作品を観に行くのと同じように、つまらないと言われている作品も観に行きなさい。」
なぜなら、
どんなに小さな作品にも、そこには必ず、それを考え、組み立てている人がいるから。
たとえば、ちょっとした式典。
華やかなショーがあるわけではなくても、そこにはたくさんの演出があります。
どんなBGMを流すのか。
客席の照明は、どのくらいの明るさにするのか。
誰が、いつ、どこから登場するのか。
一つひとつは、とても小さなことです。
でも、その積み重ねによって、 その場の空気はつくられていきます。
あの頃、そのプロデューサーの言葉を聞いた私が、わざわざ「つまらない」と言われている作品を探して観に行ったかというと……
たぶん、行っていません。(笑)
でも、その言葉は、なぜかずっと心のどこかに残っていました。
そして長い間、演出という仕事を続けてきた今、その言葉の意味がよくわかります。
現在、企業の式典やパーティーを演出する時、私は舞台の上で何をするかだけを考えているわけではありません。
お客様が会場に入ってきた時に、何を感じるのか。
それも、演出の一部だと考えています。
格式のある式典なのか。
表彰式なのか。
親睦を深めるパーティーなのか。
誰かを祝うためのパーティーなのか。
その目的によって、つくる世界は変わります。
たとえば、明るく華やかな式典なら、シンガーとダンサーによるオープニングナンバーから始め、一気にお客様を非日常の世界へ誘うことがあります。
一方で、まったく違う方法もあります。
会場のドアが開いた瞬間から、生演奏でお客様を迎える。
お客様は音楽に包まれながら会場へ入り、歓談を楽しむ。
そうしているうちに、自然とその場の空気が出来上がっていく。
改めて「ここから始まります」と告げなくても、気がつけば、もうその世界は始まっている。
非日常への入口は、一つではないのです。
私は、ウォルト・ディズニーが創り出した世界からも、演出について大切なことを学びました。
お客様が一歩足を踏み入れた瞬間から、もうそこには別の世界が広がっている。
「ここから非日常ですよ。」
と説明する必要はありません。
音楽があり、
景色があり、
そこにいる人たちがいて、
気がつけば、その世界の中にいる。
私は、この考え方が大好きです。
そして、それはテーマパークだけの話ではないと思っています。
劇場でも。
式典でも。
パーティーでも。
規模の大小にかかわらず、
お客様がその場所へ入った瞬間から、演出は始まっている。
もちろん、そのために裏側では細かなところまで考えます。
でも、
お客様に、その計算を感じてほしいわけではありません。
会場に入った時、
「なんか、いい感じ。」
そう感じてもらえたら、それでいい。
そして、いつの間にか、
気がついたら笑っていた。
気がついたらワクワクしていた。
気がついたら涙が出ていた。
私は、そんな時間をつくりたいと思っています。
お客様が自然にその世界へ入り、ほんのひととき日常を忘れて、その時間を楽しんでくださる。
その入口をつくることも、演出家の大切な仕事なのだと思います。
読んでいただき ありがとうございました。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




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