感動をつくる人の原点|Season2 第7話 人生を変えた一本の電話
- 8月6日
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劇団に入団した私は、 宝塚歌劇団の研一(研究科一年生)となり、 初舞台を終えた後も、 宝塚のさまざまな作品で舞台に立ちながら、 少しずつ舞台人として成長し、 楽しくも忙しい毎日を過ごしていました。 そんなある日。
『誰が為に鐘は鳴る』の公演中、 楽屋に一本の連絡が入りました。
「終演後、事務所へ来てください。」
理由は分かりません。
「何だろう?」
そのくらいにしか思っていませんでした。
終演後、 劇団の事務所へ向かうと、 大きな会議室へ案内されました。
部屋の中には、 普段劇団では見かけない男性の方々が並んでいます。
少しだけ、 いつもと違う空気。
でも、 その頃の私は、 オーディションというものを経験したことがありませんでした。
だからでしょうか。
緊張するという感覚もありません。
「では、この曲を歌ってください。」
ピアノの伴奏が始まります。
歌います。
「はい、次は台詞を言ってみてください。」
台詞を喋ります。
「じゃあ、もう一曲。」
言われるままに歌い、 言われるままに喋り、 気がつけば終わっていました。
「ありがとうございました。」
「あっ、終わった。」 そんな感じでした。
今思えば、あれが人生で初めて受けた、本格的なオーディションでした。
後から伺ったことですが、
私が会議室のドアを開けて入った瞬間、
プロデューサーや演出家の方々は、
「見つけた。」
そう思われたそうです。
もちろん、その時の私は、そんなこととは夢にも思っていません。
当時、東宝では、新作ミュージカル『アニー』の主演を探していました。
最初は子どもを起用する予定だったそうですが、当時の児童法の問題もあり、さまざまな課題があったそうです。
そこで、「宝塚には、小柄な生徒がいる。」そんな話から、私たちにも声が掛かったのでした。
だから、余計なことを考えることもありませんでした。
知らないということは、本当に怖いもの知らずです。
数日後の夜。 布団に入り、 ぼんやり天井を見つめていました。
その時です。
「合格」 という文字が、 天井に見えた気がしました。
夢だったのか。
本当に見えたのか。
今でも分かりません。
でも翌日。 劇団から、合格の知らせをいただきました。
正直に言うと、その頃の私は、 『アニー』という作品を知りませんでした。
ブロードウェイで大ヒットしている作品。
そう聞いても、当時の私には、遠い外国の出来事。
今の時代のようにインターネットがある時代ではありません。
作品について調べることもできませんでした。
分かっていたのは、 「東京へ行く。」 ということだけでした。
上京の日。 母が、新大阪駅のホームまで見送ってくれました。
発車ベルが鳴ります。
ドアが閉まります。
新幹線がゆっくり動き始めた、その瞬間でした。
突然、涙があふれてきたのです。
母の前では、平気な顔をしていたのに。
今でも、新大阪駅のホームへ行くと、あの日の感情がふと蘇ります。
なぜあんなに涙があふれたのかは、今でもよく分かりません。
初めて家を離れる寂しさだったのか。
それとも、新しい世界へ踏み出す不安だったのか。
今となっては、その両方だったのかもしれません。
これから始まるのは、
初めての東京での一人暮らし。
初めての外部公演。
初めての主演。
目の前には、初めて経験することばかりが待っていたのです。
その時の私は、
この東京での出会いが、私の「舞台」に対する見方を、少しずつ変えていくことになることを、知る由もありませんでした。
(第8話へ続く)」
読んでくださってありがとうございます。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




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