感動をつくる人の原点|Season2 第7話 人生を変えた一本の電話

劇団に入団した私は、 宝塚歌劇団の研一(研究科一年生)となり、 初舞台を終えた後も、 宝塚のさまざまな作品で舞台に立ちながら、 少しずつ舞台人として成長し、 楽しくも忙しい毎日を過ごしていました。 そんなある日。
『誰が為に鐘は鳴る』の公演中、 楽屋に一本の連絡が入りました。
「終演後、事務所へ来てください。」
理由は分かりません。
「何だろう?」
そのくらいにしか思っていませんでした。
終演後、 劇団の事務所へ向かうと、 大きな会議室へ案内されました。
部屋の中には、 普段劇団では見かけない男性の方々が並んでいます。
少しだけ、 いつもと違う空気。
でも、 その頃の私は、 オーディションというものを経験したことがありませんでした。
だからでしょうか。
緊張するという感覚もありません。
「では、この曲を歌ってください。」
ピアノの伴奏が始まります。
歌います。
「はい、次は台詞を言ってみてください。」
台詞を喋ります。
「じゃあ、もう一曲。」
言われるままに歌い、 言われるままに喋り、 気がつけば終わっていました。
「ありがとうございました。」
「あっ、終わった。」 そんな感じでした。
今思えば、あれが人生で初めて受けた、本格的なオーディションでした。
後から伺ったことですが、
私が会議室のドアを開けて入った瞬間、
プロデューサーや演出家の方々は、
「見つけた。」
そう思われたそうです。
もちろん、その時の私は、そんなこととは夢にも思っていません。
当時、東宝では、新作ミュージカル『アニー』の主演を探していました。
最初は子どもを起用する予定だったそうですが、当時の児童法の問題もあり、さまざまな課題があったそうです。
そこで、「宝塚には、小柄な生徒がいる。」そんな話から、私たちにも声が掛かったのでした。
だから、余計なことを考えることもありませんでした。
知らないということは、本当に怖いもの知らずです。
数日後の夜。 布団に入り、 ぼんやり天井を見つめていました。
その時です。
「合格」 という文字が、 天井に見えた気がしました。
夢だったのか。
本当に見えたのか。
今でも分かりません。
でも翌日。 劇団から、合格の知らせをいただきました。
正直に言うと、その頃の私は、 『アニー』という作品を知りませんでした。
ブロードウェイで大ヒットしている作品。
そう聞いても、当時の私には、遠い外国の出来事。
今の時代のようにインターネットがある時代ではありません。
作品について調べることもできませんでした。
分かっていたのは、 「東京へ行く。」 ということだけでした。
上京の日。 母が、新大阪駅のホームまで見送ってくれました。
発車ベルが鳴ります。
ドアが閉まります。
新幹線がゆっくり動き始めた、その瞬間でした。
突然、涙があふれてきたのです。
母の前では、平気な顔をしていたのに。
今でも、新大阪駅のホームへ行くと、あの日の感情がふと蘇ります。
なぜあんなに涙があふれたのかは、今でもよく分かりません。
初めて家を離れる寂しさだったのか。
それとも、新しい世界へ踏み出す不安だったのか。
今となっては、その両方だったのかもしれません。
これから始まるのは、
初めての東京での一人暮らし。
初めての外部公演。
初めての主演。
目の前には、初めて経験することばかりが待っていたのです。
その時の私は、
この東京での出会いが、私の「舞台」に対する見方を、少しずつ変えていくことになることを、知る由もありませんでした。
(第8話へ続く)」
読んでくださってありがとうございます。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)





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