感動をつくる人の原点|Season2 第8話 舞台の向こう側が見えた日
- 8月8日
- 読了時間: 5分

宝塚本公演『誰が為に鐘は鳴る』の上演中、私は外部公演ミュージカル『アニー』に出演することになりました。
初めての東京での生活。
とはいえ、東京には心強い存在がいました。
初舞台を踏んだ頃から、ずっと私を応援してくださっていたご夫妻です。
私にとっては、東京のお父さん、東京のお母さん。
私は、パパ、ママと呼んでいました。
アニーの主演が決まったことをお知らせすると、
「こちらでお預かりしますから、安心してください。」
そう言ってくださり、母も安心して私を送り出してくれました。
こうして私は、毎朝そのお家から東宝の稽古場へ通うことになりました。
そこには、宝塚とはまったく違う世界が待っていました。
ウォーバックス役の若山富三郎さん。 グレース役の近衛真理さん。
ルースター役の真島茂樹さん。
子どもの頃からテレビで見ていた『魔法使いサリー』の声でおなじみの平井道子さん。
そして、舞台でサンディを演じる、とても賢い犬。
今考えれば、
「とんでもないところに入ってしまった。」
と思ってもよさそうなものです。

でも、その頃の私は、そんなこともよく分かっていませんでした。(笑)
若山富三郎さんが、どれほどの大スターなのかも知らない。
周りの方々が、若山さんに話しかける時には少し緊張している。
制作スタッフの方々も、とても気を遣っている。
でも私は、
普通に話しかけていました。
怖いもの知らずです。(笑)
そんな私が珍しかったのでしょうか。
若山さんは、私をとても可愛がってくださいました。
いつも胸元を大きく開けた白いシャツに、白いジャケット、白いズボン。
金のネックレスやブレスレット。
当時の私には、
「なんだか格好いいおじさま。」
そんな感じでした。(笑)
若山さんの周りには、いつもお弟子さんたちがいて、まるでボディーガードのよう。
そんな若山さんが、よく私を連れて歩いてくださるものですから、
ある時、週刊誌に、
「若山富三郎、次の結婚相手は愛田まちか?」
というような記事まで出てしまいました。
いやいやいや。
それは、ありえません。(笑)
そんな賑やかな毎日の中で、私は11歳の孤児、アニーをつくっていかなければなりませんでした。
ところが、ここで問題が起こります。
私は宝塚の娘役。
毎日バーレッスンをして、娘役として美しく見える身体をつくっていました。
そんな私にプロデューサーから言われたのが、
「もう少し太りなさい。」
えっ?
さらに、
「踊りの練習をしてはダメ。」
ええっ?
今までやってきたことと、まるで反対です。(笑)
毎日の日課だったバーレッスンもストップ。
大人っぽく、美しく動くのではなく、11歳の子どもとして動かなければならない。
でも、私には妹も弟もいませんでした。
子どもたちと一緒に稽古をしていても、
「子どもって、どうやって遊ぶんだろう?」
そこで、ある日、演出家に相談しました。
「子ども達と、もっと仲良くなりたいんです。」
すると、こんなことを言われました。
「まず、アイちゃんが遊びを仕掛けてごらん。
みんなが遊び始めたら、そっと離れるんだ。
そして、
少し離れたところから、子どもたちを見てごらん。」
言われた通りにやってみました。
私が遊びを仕掛ける。
子どもたちが集まってくる。
だんだん夢中になって遊び始める。
そこで私は、そっと離れる。
すると、
さっきまで私と遊んでいた子どもたちが、今度は自分たちで新しい遊びを始めます。
笑ったり。
走ったり。
私は少し離れたところから、その様子をずっと見ていました。
「ああ、子どもって、こうなんだ。」
子どもを演じようとするのではなく、子どもの中へ入ってみる。
そして、離れて見る。
そんなことを繰り返しながら、私は少しずつ11歳のアニーになっていきました。
東京のママは、そんな私を見て、別の意味で心配していました。
家に帰っても、私はほとんど台本を開かなかったからです。
「アイちゃん、大丈夫?」
大丈夫だったのでしょうね。
舞台には立っていましたから。(笑)
でも今考えると、
あれだけの台詞を、私はいったいどうやって覚えたのでしょう。
まったく記憶がありません。(笑)
そして稽古が進むにつれ、私は自分でも気づかないうちに、別のものを見るようになっていました。
自分の出番が終わっても、なぜか稽古場を見ている。
演出家が何かを指示する。
演出助手が台本を持って動く。
音楽について話し合っている。
時間内に、転換が間に合わない。
転換のタイミングや順番を検討している。
もう一度やってみる。
すると、スムーズにシーンが変わっていく。
それが、
面白くて仕方がなかったのです。
「こうやって作品って、できていくんだ。」
それまでの私は、舞台とは出演者が立つ場所だと思っていました。
もちろん、宝塚でも大勢のスタッフの方々に支えられて舞台に立っていました。
でも私は出演者でしたから、
自分が踊ること。
歌うこと。
演じること。
それだけで精一杯でした。
ところが『アニー』の現場では、少し違う場所を見るようになっていました。
演出家。
演出助手。
プロデューサー。
音楽監督。
照明。
舞台スタッフ。
たくさんの人が、それぞれ違う仕事をしながら、
一つの作品をつくっている。
私は主演として舞台の真ん中にいながら、
舞台の向こう側にいる人たちが気になって仕方がなかったのです。
公演を終え、私は再び宝塚へ戻りました。
そして今度は、
11歳の少女になるために少し丸くした身体を、宝塚の娘役の身体へ戻さなければなりません。
これが、また大変。(笑)
「太りなさい。」
と言われて太って、
今度は、
「戻さなきゃ。」
ダイエット、頑張りました。(笑)
宝塚へ戻った私の中には、東京へ向かう前にはなかったものが、一つ芽生えていました。
それは、
作品をつくる人たちへの好奇心。
その時の私は、
「演出家になりたい。」
なんて、まだ思っていません。
ただ、
「作品をつくるって、面白い。」
それだけでした。
でも今振り返ると、
あの時、私は初めて、
舞台の上から、舞台の向こう側を見たのだと思います。
そして、その小さな視線の変化が、
やがて、私の舞台人生を、
思いもよらない方向へ連れていくことになります。
(第9話へ続く) 読んでくださりありがとうございました。
中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




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