感動をつくる人たち|Season3 第9話 演出は、現場を見てから始まる。

「屋外スペースを使って、ショーをつくってください」
そんな依頼を受けたら、あなたは何から始めますか?
もし私なら、最初にこう答えます。
「まず、現場を見せてください。」
屋外では、演出を考える前に、まず確認しておかなければならないことがあります。
音響や照明をどこに設置できるのか。
電源はどうするのか。
どのくらいのお客様を、どのエリアに入れたいのか。
まずは、その場所でショーを成立させるための条件を確認します。
まず、現場に行ってみる
現場へ行ったら、音響や照明などのスタッフと、スピーカーや照明を設置できる場所を確認します。
そしてクライアントとは、ステージを組むのか、どこをパフォーマンスエリアとして使うのか、どのくらいのお客様を入れたいのかを確認します。
大まかな条件が見えてきたら、今度はお客様が座るであろう場所から、会場全体を見ます。
ステージの場所や大きさ。
出演者の動線。
その途中に段差や傾斜はないか。
実際に歩いて、距離を測り、写真を撮ります。
もし自由に入れる場所なら、一人で何度も現場へ行くこともあります。
そして、その場所を見ながら、
「ここで、どんなことができるだろう。」
と考えます。
階段とスロープから生まれた物語
以前、ある遊園地が大きくリニューアルするとのことで、屋外ショーをつくったときのことです。
そこには、とても長い階段と、コンクリートの踊り場がありました。
その場所を見て、
「この階段と踊り場を使って、ショーにしよう」
と思いました。
リニューアルのテーマは、レトロな昭和。
その時点では、テーマだけが決まっていて、具体的な内容はまだ何も決まっていませんでした。
そこから、一つの物語を考えました。
町の人たちが集まり、コンクリートの踊り場をステージに見立てた「素人のど自慢」が開かれる。
歌手に憧れる商店街のウエイトレスの少女が歌っていると、長い階段の上から、警官に追われた泥棒が逃げてくる。
さらに、商店街の人まで、警官と一緒に泥棒を追いかけて降りてくる。
その大騒ぎで、せっかくの「素人のど自慢」はぶち壊し。(笑)
長い階段を使ったスタントとアクロバットを盛り込んだ、昭和風のドタバタ劇です。
もし、そこが何もない平らな広場だったら、この物語は生まれていなかったかもしれません。
現場は、制約を確認する場所であると同時に、発想をもらう場所でもあります。
そして、ここでもう一つ、アイデアが浮かびました。
泥棒を追いかける商店街の人たちの中に、自転車屋さんを登場させ、自転車を使ったアクロバットを取り入れようと思ったのです。
とはいえ、この段階では、まだ頭の中の構想にすぎません。
そこで、長い階段の中央と両脇に、コンクリートのスロープをつくることができないか、確認しました。
可能だということだったので、実際につくっていただくことになりました。
最初からそこにあった階段と、新たにつくったスロープ。
その両方を使って、ショーの見せ場をつくることにしたのです。
何秒かかるのか、実際にやってみる
ストーリーを考えたら、次は本当に実現できるのかを確認します。
スタントマンたちにも現場へ来てもらい、実際に自転車でスロープを降りたり、上ったりできるのか。
どのくらいのスピードになるのか。
安全性に問題はないか。
実際に動いてもらいながら検討します。
そして、このときオリジナルの音楽制作に必要な秒数を計り、ビデオを撮影します。
こうしたオリジナル作品では、音楽が先ではありません。
何秒で何が起こるのかを実際に確認し、その時間に合わせて音楽をつくっていきます。
作曲家には、芝居の流れ、秒数、物語の時代設定、写真やビデオ、欲しい音楽のジャンルなど、必要な情報を渡します。
演出家が頭の中だけで、
「たぶん、このくらい」
と決めるのではなく、必要なら実際にモックアップをする。
そして、その情報を関係スタッフと共有していきます。
360度なら、360度の見せ方がある
横浜でキャラクターショーを演出したときは、2年続けて、まったく条件の違う場所を使いました。
1年目は、美術館前の広い通路。
通路の両側にお客様が座り、その後ろにも立ち見のお客様がいる。
ほぼ360度から見られる空間です。
路上で行うパレードのショーモードに近い考え方で、出演者を両方向へ振り分け、どちら側のお客様から見ても、常に誰かの顔が見えるようにします。
翌年は、同じ出演キャラクターと楽曲を使いながら、背景には防波堤と海。
今度は180度です。
私は、360度だから特別難しい、180度だから簡単、とはあまり考えません。
その場所の条件に合わせて、見せ方を考えればいい。
方法はいくらでもあります。
ステージは、一つでなくてもいい
別の場所では、湖のような水辺を中心に、その周囲の陸上に3ヶ所のステージを設置したショーをつくったことがあります。
出演者は、船や陸上を使いながら、それぞれのステージへ移動していきます。
一つのステージを正面から見るショーとは、まったく違う空間です。
でも、ここでも考え方は同じ。
会場全体を、一つのショー空間として見る。
この経験は、後に別の場所でも生きました。
品川プリンスホテル主催のカウントダウンでは、水族館のイルカショーのプールを中心に、4ヶ所のステージをつくりました。
今度は屋内です。
でも、プールを囲む360度の空間を出演者が移動しながらショーを展開するという考え方には、共通するものがあります。
屋外で使った方法は、屋外でしか使えないわけではありません。
場所が違っても、考え方は使える。
だから私は、屋外と屋内をそれほど分けて考えないのかもしれません。
屋外での上演には、天候判断のマニュアルが必要
屋外では、雨が降る。風が吹く。急に天候が変わることもあります。
風速や雨量については、あらかじめ中止の基準を決めておきます。
当日は運営スタッフや舞台監督と天気予報や雲の流れを確認し、何度か判断するタイミングを設けます。
そして本番直前に、もう一度確認する。
上演中でも、安全に続けられないと判断されれば中止します。
そのとき、
誰が判断するのか。
どう出演者へ伝えるのか。
どう退場するのか。
そこまで事前に決めておきます。
安全については、演出家一人で考えるものではありません。
舞台監督、運営、音響、照明、アテンドスタッフ。
それぞれの専門家が協力し、その現場に合ったマニュアルをつくります。
こうした連携があって初めて、お客様の前で作品を成立させることができます。
まず、現場に行きなさい
もし若い演出家から、
「初めて屋外イベントを演出することになりました。何から始めればいいですか?」
と聞かれたら、私はこう答えます。
「まず、現場に行きなさい。」
客席に座ってみる。
歩いてみる。
見る。
測る。
必要なら、実際に人を動かしてみる。
そこで初めて見えてくるものがあります。
そして時には、その場所に立ったからこそ生まれるアイデアがあります。
「屋外だから難しい」
「劇場じゃないからできない」
そう考えるのではなく、
「この場所なら、何ができるだろう。」
そこから考える。
屋外も屋内も、条件が違うだけ。 その場所に立ち、そこから発想することで、新しい作品は生まれる。
演出は、現場を見てから始まります。 読んでいただき ありがとうございました。 中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)





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