感動をつくる人たち|第32話 鳥肌が立つまで、終われない
- 5月16日
- 読了時間: 3分
— エンターテイメントに“正解”はない —

エンターテイメントの世界には、
「これが絶対の正解です」というものが、ほとんどありません。
演出も、振付も、音楽も、照明も。
どれだけ経験を積んでも、最後まで迷うことがあります。
むしろ、本気で作品をつくればつくるほど、簡単には決められなくなる。
実は、私の作品づくりの現場では、こんな会話がよく飛び交っています。
「どっちが好き?」
「どっちが気持ちいい?」
もちろん、構成や理論、テンポや展開、技術的な裏付けも大切です。
けれど最後は、理屈では説明できない“ 感覚 ”が、作品の方向を決める瞬間があります。
以前、あるクリスマスショーの音楽制作を、アメリカ・LAのスタジオで行っていた時のことです。
楽曲は、♪ Have Yourself a Merry Little Christmas
演出の構想はこうでした。
最初はカップルが優雅にペアダンスを踊り、途中から、ステージ上のアイススケートリンクへ移動。そこからダイナミックなフィギュアスケートのペア演技へと切り替わっていく。
私は、その切り替わりの瞬間を、最高にドラマチックにしたかった。
客席の空気が、ふわりと一段上がるような。
観客が「わぁ……」と、無意識に身を前に乗り出してしまうような。
そんな“ 高揚感 ”を、追い求めていました。
レコーディングは、豪華なフルオーケストラ。
ミックスダウン作業は、気が遠くなるほど繊細な世界でした。
ほんの少し、音のバランスが変わるだけで、空気が変わります。
エンジニアさんも、私の意図を汲み取り、何度も細かく調整を重ねてしてくれました。
「ハープを少し上げてみようか?」
「オーボエを前に出してみる?」
「ストリングス、もう少し広げる?」
でも、まだ違う。
音としては、十分に美しい。
迫力もある。
でも........まだ、鳥肌が立たない。
私は、「もう少し、何か欲しいんです」と、何度もお願いしました。
今思えば、かなり感覚的なオーダーだったと思います。(笑)
けれど、ものづくりの現場には、数値化できない“ あと少し ” が、確かに存在するのです。
そして、何度目かの調整を終えた、その時。
突然、「きたーーーーーぁ!」という瞬間が訪れました。
自分の体全体に鳥肌が立ったのです。
リンクへ滑り出す情景。
クリスマスの冷たく澄んだ空気。
雪のきらめき。
舞台の圧倒的なスケール感。
バラバラだったピースが全部一気につながった気がしました。
「これです!!!」
思わず、スタジオで声を上げたのを、今でも覚えています。
何を変えたことで、そこに辿り着いたのか。
はっきり覚えていないのですが、作品づくりとは、そういうものなのかもしれません。
悩み抜いて、迷い続けて、感覚を極限まで研ぎ澄ませて。
可能な限り、妥協せず。
最後は、「こっちの方が、心が動く」
その直感を、信じるしかない。
そしてきっと、作り手の“ 震え ”は、必ず客席にも伝わっていく。
だから私は今日も、“ 正解 ”のない問いを繰り返しながら、
最後には、自分の心が震える方を選んでいます。
そしてきっと、世界中のの演出家やクリエイターたちも同じように、
“ 説明できない感覚 ”という名の確信を信じ続けているのだと思います。
読んでくださってありがとうございます。
心に残りましたら、応援いただけると嬉しいです。
中間裕子(Y.Ai.Nakama)




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