感動をつくる人たち|第35話 本番で「100%」を出させない理由
- 5月19日
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リハーサルでは、出演者が全力でぶつかってこられるよう、演出チームは限界まで彼らを引っ張っていきます。 作品によっては、体力の限界まで挑戦してもらうこともあります。
それは、本番が始まった時に、出演者自身が「力の配分」をコントロールできるようにするためです。
最初から最後まで、ずっとハイテンションのまま走り続けてしまうと、本当に大切な場面で息切れをしてしまう。
そして、パフォーマンスの精度も確実に落ちていきます。
だから私は、本番前になると、いつも出演者にこう伝えます。
「本番では、90%で演技しなさい」
初めて聞いた人は、驚くかもしれません。
「本番なのに、100%じゃなくていいの?」
「むしろ、全部を出し切るべきじゃないの?」と。
でも、長年舞台をつくってきて、私は確信していることがあります。
本当に強い表現者ほど、心の中に「少しだけの冷静さ」を残している。
リハーサルは、挑戦する場所です。
どれだけ失敗してもいい。
間違えてもいい。
一度限界を超えてみないと、自分の本当の可動域は見えてきません。
全力でぶつかって、息が上がって、思い通りにいかなくて……それでも、もう一歩先へ進もうとする。その積み重ねが、本番の揺るぎない土台になっていくのです。
けれど、本番で同じように100%を出し切ろうとすると、舞台は危うくなります。
自分のことで精一杯になり、周りが見えなくなるからです。
すると、舞台上のちょっとした変化に気づけなくなり、大切なチームワークが乱れてしまいます。
舞台は、一人では完成しません。
音楽があり、照明があり、相手役がいて、スタッフがいて、そして客席の空気がある。
そのすべてが重なって、初めてひとつの世界になります。
だからこそ、私は出演者にこんな話をすることがあります。
「頭の上に、もう一人の自分を置いておきなさい」
夢中になりながらも、どこかで自分を客観的に見ている自分を残しておく。
その「10%の冷静さ」があることで、初めて舞台の全体像が見えてくるのです。
実際の舞台では、何も起きない日の方が少ないかもしれません。
音のタイミングがズレる、立ち位置が少し変わる、小道具が予定した場所にない……。そんな時、100%自分の世界に入り込んでいる人は、突然のトラブルにパニックを起こします。
でも、「もう一人の自分」を持っている人は違います。 一瞬で空気を読み、周りを見て、呼吸を合わせ、何事もなかったかのように舞台の流れを戻していく。それは精神論ではなく、ひとつの「技術」なのだと思います。
これは、オーディション会場でも同じことが言えるかもしれません。
多くのダンスオーディションでは、振り付けを覚えた後、一度全員が外へ出され、自分の順番が来るまで廊下で待機します。
その時間、必死に振り付けを確認している子たちがいます。
何度もカウントを数えながら、ギリギリまで汗をかいて練習している。その努力は、本当に素晴らしいものです。
オーディションは夢への入口ですから、「この役を勝ち取りたい」という強い気持ちは欠かせません。
でも私は「その時間だからこそ、一度冷静になることも大事なのではないか」と思うのです。
「この振り付けで、審査員は何を見たいのだろう?」
「この作品は、どんな空気を求めているのだろう?」
「その中で、自分らしさをどう表現しようか?」
ただ振りを間違えないことだけではなく、求められている役柄や空気を感じようとする。
そんなふうに、一歩引いて俯瞰できる人は、本番の舞台でも強い。
情熱は大切です。
でも、「情熱」と「必死さ」は少し違います。
必死になりすぎると、視界が狭くなってしまう。
舞台で信頼されるのは、予期せぬ事態でも冷静に空気を読み、周囲と呼吸を合わせられる人です。
だからこそ、オーディションの待ち時間にこそ、少し落ち着いてこう問いかけてみてほしいのです。
「今、自分はどう見えているだろう?」
本番で本当に強い人は、感情に飲み込まれません。
情熱を持ちながらも、ほんの少しの「静けさ」を残している。
だから、突発的なことが起きても崩れない。
相手を感じられる。
そして、そのエネルギーが客席の奥まで届いていく。
舞台の上で誰よりも輝く人ほど、実は、誰よりも冷静なのかもしれません。
読んでくださってありがとうございます。 心に残りましたら、応援いただけると嬉しいです。
中間裕子(Y.Ai.Nakama)




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