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感動をつくる人の原点|Season2 第3話  「見学」のつもりで受けた受験

  • 1 日前
  • 読了時間: 4分




宝塚音楽学校の受験を決めたものの、声楽の先生からは、「今回は、入学試験の会場を見学するつもりで受けてごらんなさい。」

そう言われていました。


今思えば、 先生は私を必要以上に緊張させないように、 そう言ってくださったのかもしれません。


でも15歳の私は、 その言葉を、 かなり素直に受け取っていました。

「見学のつもり。」


つまり、 少し気楽に行けばいいんだ。

そんな気持ちだったのかもしれません。

とはいえ、 何も準備をしていなかったわけではありません。


毎週日曜日の朝になると、 同じ先生のもとで受験する仲間たちが、 先生のお宅に集まりました。


課題曲。 自由曲。 新曲視唱。 聴音。

そして、 面接での立ち方や座り方、 歩き方まで。


まるで入学試験の模擬レッスンのような時間が、 毎週行われていました。


声楽を始めてまだ三か月。 分からないことばかりでしたが、 一つひとつ教えていただきながら、 受験の日を迎える準備をしていきました。


子どもというのは不思議なもので、 親に言われるより、 先生に言われたことの方が素直に聞けたりするものです。(笑)


そして迎えた、 宝塚音楽学校の入学試験。


会場には、 たくさんの受験生がいました。

中には、 高校を中退して挑戦している人。

高校を卒業してから受けに来ている人。

何年もこの日を目指してきた人もいたと思います。


人生をかけて、 真剣に受験に来ている人たち。

そんな張り詰めた空気の中で、 私はというと…… どこか「見学」に来ているような気持ちだったのかもしれません。


先生のところには、 当時、宝塚音楽学校の予科生の方たちもレッスンに来ていました。


その方たちは、 予科生としての一年を終え、 間もなく本科生になる頃。


そして、 本科生は音楽学校を卒業し、 初舞台の稽古に入っている時期でした。


そんな先輩たちが、 受験生の面倒を見ながら、 「今年はどんな子が受けているのかな。」 と見ていたのだと思います。


そんな中で私は、 控室や廊下で、 お姉さんたちとキャッキャしていたようです。


本人はあまり覚えていませんが、 あとになって、 「本当に遊びに来ているみたいだった。」 と、いろいろな人に言われました。(笑)


もちろん、 試験が始まれば真剣でした。

課題曲も、 自由曲も、 思っていた以上にうまく歌えました。


その場で渡される新曲も、 スラスラ歌えた記憶があります。

「お任せあれ!」 そんな気持ちだったのかもしれません。(笑)


バレエの試験も、 私にとっては、 体操のように感じるくらい簡単で、 楽しく踊ることができました。


そして、 面接。


部屋に入ると、 面接官の先生方がずらりと並んでいました。


一度に何人かの受験生が入り、 一人ずつ前に出て質問に答えていきます。

その時、 先生のお一人が言いました。

「○番さん、もう一度前に出てきてください。」

呼ばれたのは私でした。


実はその時、 私は身長を少し高めに申告していました。

本当は147センチくらいしかなかったのに、 「152センチです。」 と答えていたと思います。


すると先生は、 もう一人の受験生に、 「隣に並んでみて。」 とおっしゃいました。


その瞬間、 「終わった……。」


そう思いました。(笑)


ところが。 実は、 その隣に並んだ受験生も、 同じように身長を少し高めに申告していたのです。

あとになって、 二人で顔を見合わせて大笑いしました。

「あの時は焦ったね。」と。 そして、 不思議なことに、 私たちは二人とも合格しました。


面接では、 もう一つ聞かれたことがあります。


「昨年一年で、 身長は何センチ伸びましたか?」


私は、 「7センチです。」 と答えました。

これは、本当でした。


その瞬間、 面接官の先生方が少しどよめいたのを覚えています。


きっと、 「それなら、まだ伸びる。」 そう思われたのでしょう。

実際、 その後も少し身長は伸びました。

音楽学校を卒業する頃には、 前から五番目くらいになっていました。


……ただ、 先生方が期待されたほどではありませんでした。(笑)


試験が終わった帰り道。 何を考えていたのかは、 はっきり覚えていません。

でも、 楽しかった。

頑張った。

そんな気持ちは残っています。

課題曲も歌えた。

自由曲も歌えた。

新曲も歌えた。

バレエも楽しく踊れた。

面接では少し冷や汗をかいたけれど、 「結構、いけたんじゃない?」


そんな楽天的な気持ちでいたように思います。


知らないということは、 時に強いものです。


怖さを知らないから、 必要以上に緊張しない。


失敗の重さを知らないから、 思い切って挑戦できる。


15歳の私は、 まだ何も分かっていませんでした。


でもだからこそ、 人生最初の大きな挑戦を、 心から楽しむことができたのだと思います。


この時の私は、 翌日、 自分の人生が大きく動き始めることを、 まだ知る由もありませんでした。




読んでくださってありがとうございます。  

中間裕子(Yuko.Ai.Nakama)




 
 
 

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